汽車旅の記憶(3) 小松島線【1980年8月】


小松島線は、徳島から牟岐線の少し先、中田(ちゅうでん)から分岐して小松島に至る全長わずか1.9キロの短い路線で、おもな使命は和歌山と小松島を結ぶフェリーとの連絡です。そのため、本来の終点である小松島駅をかすめるように乗船場までの線路が延長されて「小松島港仮乗降場」が作られ、フェリーからの乗り換え客の利便を図っていました。しかしながら、徳島市内へのアクセスがより便利な徳島港の整備が進むとともに小松島港は衰退し、小松島線も1984年3月にその役割を終えました。
写真は大学の仲間とともに小松島港仮乗降場に着いたときのものです。停車しているのは急行「よしの川」ですが、このように小松島線には廃止直前まで急行列車が発着し、「関西地区と四国を結ぶ交通路の一部」を担っていたことがうかがわれます。
2013年8月、私は小松島駅及び小松島港仮乗降場の廃線跡を再訪しました。小松島駅付近は小松島ステーションパークとして整備され、SLなども保存されていますが、小松島港仮乗降場の方はがらんとした空き地のようになっていました。しかしよく見ると、当時の写真と同じ倉庫(三角の屋根が小さく写っている)が残っており、間違いなくこの場所に列車が発着し、フェリーからのお客さんを運んでいたことが分かります。また、跡地の方の写真にヤシ科の樹木が見えますが、廃止前の写真(私が撮影したものではない)にも同じような樹木が写っていることから、当時からずっと生えているものと思われます。
廃線跡を訪問した日はクマゼミの声が暑さを増幅しているようでした。大汗をかきながら、暑さの向こうに30年近く前の幻を見るようなひとときでした。

